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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)1071号 判決 2000年3月23日

主文

一  被告は、原告らそれぞれに対し、各一二〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らそれぞれに対し、各一三〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする、

3  仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  兵庫県知事の処分等

(一) 既存宅地の確認の意義

都市計画法四三条一項本文は、都市計画法上の市街化調整区域とされた地域においては、都道府県知事の許可なしに建築物の新築を禁じているが、同条項六号ロ所定にいう「市街化調整区域に関する都市計画が決定され‥‥た際すでに宅地であった土地」(以下「既存宅地」という。)については、例外的に、知事によるその旨の確認がされれば、例外的に知事の許可を得ることなく建築物の新築が許されることになる(同条項ただし書)。

既存宅地の確認制度は、市街化調整区域内の土地であっても市街化区域と同一の日常生活圏を構成する一定規模以上の集落内にあり、しかも調整区域とされた時点で既に宅地となっているものについてまで一律に建築等の制限を行うことが実情に沿わないとの趣旨に基づき創設されたものとされている。

(二) 兵庫県知事による既存宅地の確認

兵庫県知事は、平成三年一一月八日付けで、別紙第一物件目録記載の合計一九〇五・五七平方メートルの範囲の土地(別紙第一図の赤線で囲まれた範囲の土地、以下「本件土地」という。)が既存宅地であると確認する旨の処分(以下「本件処分」という。)を行った。

本件土地は、昭和四六年三月一六日(以下「基準時」という。)、いわゆる「線引き」により、都市計画法上の市街化調整区域とされていたが、本件処分によりも本件土地については改めて知事の許可を得ることなく建築物の新築ができることとなったものである。

(三) 原告らの居住関係等

本件処分の後、本件土地の上には別紙第二物件目録記載の一一階建ての高層共同住宅(以下「本件建物」という。)が新築された。本件建物は、概ね別紙第二図の斜線で囲まれた位置に建築されている。

承継前の原告亡田靡ひでの(以下「亡ひでの」という。)は、本件建物の西側隣りの建物のうち、別紙第二図に「田靡ひでの居宅」と表示の建物部分(以下「亡ひでの宅」という。)に、原告吉岡勲及び原告吉岡恵津子は、別紙第二図に「吉岡勲居宅」と表示の部分(以下「吉岡宅」という。)に居住しており、原告田靡清は、亡ひでの宅の南隣りの別紙第二図に「田靡清居宅」と表示の建物(以下「清宅」という。)を所有し、ここに居住していたものである。

2  本件処分の違法性

(一) 本件土地の分筆及び合筆の経過等

別紙第一物件目録掲記の三筆の分筆及び合筆の経過は、別紙第三図に記載のとおりであり(以下、それら三筆の土地については、分筆及び合筆の前後の土地を含め、地番のみにより「四三四番二土地」などというが、四三四番二土地については、平成三年二月八日合筆以前の土地を「旧四三四番二土地」という。)、基準時においては、登記簿上の地目が「宅地」であったのは、旧四三四番二土地、四三四番三土地及び四三四番四土地の三筆のみであり、その三筆の登記簿上の地積は、七七一・七九平方メートルであった。

また、四三四番一土地及び四三六番一土地の登記簿上の地目は、いずれも「山林」であった。

(二) 本件土地は、基準時において、その大部分が「増位山」の山裾の斜面の一部を構成していた山林であって、宅地ではなかった。

確かに、登記簿上も宅地とされていた四三四番二土地の上には、基準時以前から建物が存在していたが、その範囲はせいぜい二〇〇平方メートルに過ぎず、その建物の北側すなわち本件土地の大部分は、かなり急な増位山の斜面が迫り天然の孟宗竹が生い茂っていたのである。

(三) ところが、四三四番二土地は、平成三年二月八日、四三四番三土地(一二三・九六平方メートル)及び四三四番四土地(九九・一七平方メートル)を合筆したとして、登記簿上の地積が七七一・七九平方メートルとなり、さらに、その後、建設用重機で右孟宗竹の斜面が広範囲にわたって切り開かれた上、平成三年一〇月九日付けで、「錯誤」を原因とする地積更正がされ、登記簿上の地積が一挙に一六五二・九一平方メートルに膨らんだ。

(四) 大高興産株式会社は、平成三年一一月二日付けで、兵庫県知事に対し、本件土地の全部が既存宅地であるとして、その旨の確認を申請したところ、兵庫県知事は、本件土地が、右申請の直前の斜面掘削工事で、人為的に「宅地」であるかの状況が創出されたに過ぎない事実を看過し、本件処分を行った。

したがって、本件処分は、基準時においてその大部分が既存宅地ではなかった本件土地を既存宅地であったとの認定し、都市計画法四三条一項六号ロ所定の要件の適用を誤った違法な処分である。

3  兵庫県知事の過失

(一) 既存宅地の確認に関する通達

既存宅地であったかどうかの事実認定については、昭和五〇年三月一八日付け宅地開発課長通達、昭和五七年七月一六日付け計画局長通達及び同日付け民間宅地指導室長通達があり、基本的には、土地登記簿、固定資産税台帳を基本的資料とし、航空写真や公的機関の証明等を参考資料とし、それら資料を総合的に勘案することを求めている。

(二) 本件処分を行うに際しての過失

本件土地に関する既存宅地の確認申請書には、登記簿謄本のほかに、本件土地全体が基準時において従業員寮の敷地として利用されていたことを述べる上申書(甲第四号証)や昭和四四年六月一日撮影の航空写真(甲第二〇号証)が添付されていたが、本件土地のうちの四三四番一の土地及び四三六番一の土地の登記簿上の地目は宅地ではなく「山林」であったし、航空写真には、本件土地の一部に建物が見えるが、その建物の北側は竹が生い茂った山裾の斜面となっており、到底、本件土地の全域の現況が宅地であったとは判断できる資料ではなかった。

しかも、本件土地が既存宅地であった事実の証明文書としては、公的機関の証明等はなく、申請者本人が作成した上申書が添付されていただけであったが、その上申書の記載内容が虚偽であることは、原告田靡清など本件土地の近隣に長年居住する住民に問い合わせれば容易に判明することであった。

にもかかわらず、兵庫県知事は、右航空写真や上申書といった極めて不十分な資料に基づき、本件土地の全部が既存宅地であったという誤った事実を認定したのであり、過失により違法な本件処分を行ったのであるから、本件処分の結果として亡ひでの、原告吉岡勲、原告吉岡恵津子及び原告田靡清(以下、これら四名を「原告ら」という。)が被った後記損害を賠償する責任を負う。

(三) 本件処分の取消し・変更をしなかった過失

(1) 都市計画法三条の規定から明らかなとおり、兵庫県知事は、既存宅地の確認を行うについては、当該市街化調整区域に居住する住民の利益を不当に侵害することがないようにしなければならないのであって、本件処分が違法であることが明白となり、これを放置すれば住民の利益が不当に侵害されるときは、都市計画法八一条に従って本件処分の取消し又は変更すべき責務を負っていた。

(2) 原告らは、平成六年七月に本件建物建築計画を知り、市街化調整区域である本件土地上に高層共同住宅が建設されることを強く疑問に思い、調査の結果、違法に本件処分がされたことを知るに至り、本件訴訟代理人弁護士山崎喜代志(以下「山崎弁護士」という。)を通じて姫路土木事務所長等に対し、平成六年八月三〇日付け「抗議書」、「申入書」と題する内容証明郵便(甲第三三ないし第三六号証)で、本件処分の違法性の明白性を指摘するとともに、善処を申し入れ、その後、平成七年四月には山崎弁護士らが兵庫県知事宛に本件処分の取消しを求める文書(甲第三七号証)を送付した。

(3) さらに、原告らは、平成七年五月一八日には、担当職員と面談して被害発生の可能性、本件処分の違法性を訴えるとともに、本件処分の取消しを含めて兵庫県知事の責任において適正な措置を行うよう強く求めた。そして、その際には、地域住民から兵庫県知事に対し本件処分の取消しを求める旨の要請書三七六通が提出された。

しかし、兵庫県知事は、本件処分が違法であり、かつ、付近住民の利益が不当に侵害されるとの原告らの指摘を無視し続け、本件建物の建築行為を放置し、過失によって違法に権限を行使しなかったから、本件処分の結果として原告らが被った後記損害を賠償する責任を負う。

(四) 本件土地の開発行為を放置した過失

(1) 都市計画法にいう「開発行為」とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいい(同法四条一二号)、「土地の区画形質の変更」とは、宅地造成に伴う道路の新設・廃止・付け替えや切土・盛土・整地をいうところ(同法二条二号)、本件処分後、本件建物の建築工事に際しては、大規模な切土、盛土、整地という土木工事が行われたのであり、これら土木工事が「開発行為」に該当することは明らかである。

(2) 本件処分は、右のような開発行為がされることを予定して行われたのであるが(確認の申請書には「予定建築物の用途」として「中高層共同住宅」との記載がされている。)、このような場合には、当該開発行為及びこれに引き続く建築工事によって周辺住民の利益が不当に侵害されることが予見できたのであるから、兵庫県知事としては、都市計画法四一条の規定に基づき、建築物に関する適切な制限を行うべき責務を負っていたが、何らの措置もとらなかったのであり、このことについても知事に少なくとも過失があったことは明らかである。

4  原告らの損害

(一) 原告らの居住場所は、市街化調整区域内に位置し、これに隣接して第一種住居専用地域(その後、都市計画法の改正により第一種低層住居専用地域に指定された。)があり(甲第二六号証)、原告らの居宅は、周囲の自然環境が豊かで、日照や良好な通風を妨げるものなど何もなかったのである。

(二) ところが、本件建物は、六三世帯が入居する地上一一階建ての高層共同住宅であって非常に巨大な建築物であり、このような建築物が、原告ら居宅のすぐ隣りに建築されてしまったため、原告ら居宅には、本件建物による巨大な影に覆われることになった。

(三) 亡ひでの宅及び吉岡宅は、いずれも東側の窓から採光する構造になっていたが、比較的高台にあり、通風においても日照においても非常な好条件の下にあったが、本件建物により、冬至期において午前八時から午後二時三〇分ころまでの約六時間三〇分に亘って日照が奪われてしまったうえ(甲第二七ないし第二九号証)、通風にも大きな支障が生じた。

(四) また、本件建物の各階のベランダ部分からは、原告らの居宅あるいはその敷地は明らかに「観望」されるようになり、原告らは、そのプライバシーの著しい侵害を受けているほか、巨大高層共同住宅の完成に伴う圧迫感を日々味わわなければならなくなった。

(五) 以上のような原告らの損害を慰藉するに相当な慰藉料の額は、原告らそれぞれにつき、少なくとも一〇〇万円を下らない。

(六) さらに、原告らは、本訴提起及び追行を原告ら訴訟代理人に有償で委任せざるをえなかったところ、本件処分と相当因果関係に立つ弁護士費用は、原告ら一人当たり三〇万円を下らない。

5  損害賠償債権の承継

亡ひでのは平成一一年二月二八日死亡し、亡ひでのの相続人は田靡清二、尾上はなゑ、北川康晴、北川淳子及び原告田靡清の五名であったところ、その五名の共同相続人は、亡ひでのの被告に対する損害賠償債権を原告田靡清に帰属させる旨の協議を調えた。

6  まとめ

よって、原告田靡清、原告吉岡勲及び原告吉岡恵津子は、いずれも、国家賠償法第一条に基づき、被告に対し、兵庫県知事の過失によって生じた右4の損害の賠償金各一三〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成一〇年六月一七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、原告田靡清は、亡ひでの国家賠償法第一条に基づく損害賠償債権の履行として、被告に対し、亡ひでのに生じた右4の損害の賠償金一三〇万円及びこれに対する右同様の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実はいずれも認める。

2  同2(一)の事実は認めるが、その余は否認する。

旧四三四番二土地、四三四番の三及び四三四番四の土地は、基準時も合筆時も三筆一団の宅地であり、それら土地の上には基準時に木造建物が存在した。四三四番二土地は、右合筆時に七七一・七九平方メートルであったものが錯誤を原因として一六五二・九一平方メートルに地積更正されているが、錯誤を原因とする地積更正の効力は登記の当初にさかのぼるから、旧四三四番二土地、四三四番の三及び四三四番四の三筆の土地は、その登記の当初から(すなわち基準時においても)、三筆一団で一六五二・九一平方メートルの広さの宅地として登記されていたものということができる。

また、四三四番一土地及び四三六番一土地の登記簿上の地目は山林であるが、これらの土地の一部は航空写真及び上申書によれば基準時において四三四番二土地への進入通路として利用されていた。

本件土地は、四三四番二土地の全部とこれへの進入路として利用されていた四三四番一土地及び四三六番一土地の各一部とで構成されており、その全体が既存宅地であったから、本件処分は適法である。

3(一)  同3(一)の主張の通達があることは認める。

(二)  同3(二)の主張は争う。

既存宅地の確認に関する昭和五〇年三月一八日付け宅地開発課長通達記四の(1)の(イ)の後段には「市街化調整区域となった時点における土地の現況については、土地登記簿、固定資産課税台帳等により判断されたい。」とされているのであり、兵庫県知事(及びその補助職員)は、基準時における本件土地の登記簿上の地目が「宅地」であったこと及び現地調査においても本件土地全部が宅地として使用されていた状況を確認し、本件処分を行ったのであり、その認定判断には何ら落ち度はない。

なお、原告らの権利侵害について国家賠償法一条一項にいう「過失」があるというためには、当該損害の発生を予見し回避すべき行為義務を尽くさないことをいうと解される。

しかし、都市計画法は、既存宅地確認処分の対象土地上の建物による日影等に関し何ら制限を設けておらず、処分権者である兵庫県知事は、本件処分の際、周辺住民の生活環境を配慮すべき行為義務を負うものではなく、本件処分によって原告らに日照被害等が生じたとしても、これを予見し回避すべき行為義務が法律上存在しない以上、兵庫県知事に過失はない。

(三)  同3(三)及び(四)の主張は争う。

本件土地については、平成三年に竹林が伐採され整地され、その後、本件建物の建築のための土木工事も行われているが、これらは、いずれも土地の区画自体を変更するものではなく、都市計画法にいう「開発行為」に該当しない。

また、本件土地は市街化調整区域であり、原則として用途地域の指定のない区域で、平成四年改正前の建築基準法上、用途地域の指定のない区域については日影に関する規制は存在しなかった。そして、本件建物については平成四年改正前建築基準法七条三項に基づいて検査済証が作成されている。したがって、本件建物は建築基準関係法令に適合した形態で建築されたものである。

したがって、兵庫県知事が、本件処分後に、本件土地や本件建物に関しても何らかの規制権限を行使すべきであったということはできない。

4  同4の事実は否認する。

まず、原告らの日照被害の有無・程度についてみると、清宅は、冬至の日においても午前八時三〇分以降本件建物により日照が妨げられる部分は全く存しておらず、本件建物による日照被害はないと思われる。次に、亡ひでの宅は、原告ら提出の日影図(甲第二八号証、なお、この日影図は方位角に誤りがあり、実際よりも日照時間が三〇分程度少なくなるよう作成されている。)によっても、冬至において、その南側の窓には午前一〇時三〇分以降日照が存在し、以後、本件建物によって日照が妨げられることはない。さらに、吉岡宅の場合、その西側側面は冬至の日の午後〇時三〇分以降も本件建物の影により日照が妨げられることはない。加えて、吉岡宅は、七月一〇日ころには簾が必要なほどの日照があり、一〇月一〇日ころにおいても右居宅の窓に日除けを立てているのであって(乙第九号証)、その日照被害の程度には疑問がある。

次に、原告らの居宅に通風に関する被害のないことは、原告田靡清の本人尋問の結果に照らしても明らかである。

そもそも、原告らの主張する損害はいずれも本件建物の形態に起因するものであり、既存宅地の確認をするに当たっては予定建築物の形態によって生じるおそれのある周辺住民の生活環境の侵害の有無・程度をも考慮すべきと解する根拠はないから、仮に右損害が発生しているとしても、それは、直接には本件建物の形態に起因するものであり、本件処分と相当因果関係を有するとはいえない。

5  同5の事実は知らない。

6  同6は争う。

仮に、本件処分が原告らに日照被害等の損害をもたらしたとしても、兵庫県知事が、国家賠償法一条一項が定める「違法に他人に損害を加えた」場合に該当するというためには、兵庫県知事が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して本件処分を行ったことが必要である(最高裁判所昭和六〇年一一月二一日第一小法廷判決民集三九巻七号一五一二頁参照)。

ところで、既存宅地の確認に関する都市計画法四三条一項但書六号の規定は、建築物の具体的形態(容積率・建ぺい率・建築物の高さ等)に関する基準を何ら設けておらず、既存宅地確認処分の判断は、予定建築物の形態によって生ずる周辺住民の生活環境利益の侵害の有無をも考慮して判断すべきであるとは解釈できない。

したがって、兵庫県知事は、原告らとの関係で、その日照被害等の損害の有無を考慮して本件処分をすべき職務上の義務を負っていないから、本件処分が原告らに対する権利侵害となるとしても、国家賠償法一条一項上、職務「違法」と評価される余地はない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  既存宅地の確認等について

一  都市計画法四三条一項六号ロ所定の既存宅地の確認制度の趣旨は請求原因1(一)のとおりであって、既存宅地とは、市街化調整区域に関する都市計画が決定された時点において、既にその現況が宅地であった土地であり、かつ、現時点(確認の時点)においても現に宅地として利用されている土地、すなわち開発行為を伴わないで建築物の建築が可能な宅地として利用されている土地を意味すると解される(最高裁判所平成一一年一月二二日第二小法廷判決・判例地方自治一九一号八五頁参照)。

二  右のとおり、既存宅地とは、都市計画によるいわゆる「線引き」がされた時点で「宅地」として登記された土地を意味するのではなく、線引き当時の現況が宅地であった土地を意味するものであり、既存宅地かどうかの判定は、線引きから余り年月が経過していない時点では比較的容易であるが、線引きから年月が経過すればするほど困難なものとなるわけである。

そのため、次の三のとおり、既存宅地かどうかの判定については、建設省係官の通達が発せられている。

三  甲第二五号証によれば、以下の事実が認められる。

1  既存宅地の確認制度の運用基準に関する基本的な通達は、昭和五〇年三月一八日付け宅地開発課長通達であり、これにより、「市街化調整区域となった時点における土地の現況については、土地登記簿、固定資産課税台帳等により判断されたい。」(同通達記四の(1)の(イ)後段)とされ、一応、土地登記簿などの公文書の記載が基本的資料となるとされた。

2  ところが、時の経過とともに、線引きが行われた当時の土地の現況を認定する作業に困難を伴う例が増加し、右1のような土地登記簿や固定資産課税台帳といった基本的資料だけで、既存宅地の確認制度を適切に運用することが困難となってきたため、昭和五七年七月一六日付け計画局長通達及び同日付け民間宅地指導室長通達が発せられるに至った。

3  右局長通達は、「確認に当たっての基本的資料は、土地登記簿、固定資産税台帳によるものとした上で、その他の諸資料、状況等に照らし市街化調整区域とされた時点における土地の現況が宅地であったことの蓋然性が極めて高いと認められる土地については、確認を行って差し支えないこと。」(右局長通達記二(2)イ)とした。

4  右室長通達は、右局長通達がいう「その他の諸資料、状況等とは、次に掲げる資料等をその例とし、これらの資料等を総合的に勘案したうえで、確認を行うこと。イ 市街化調整区域とされた当時の航空写真、ロ 農地法(昭和二七年法律第二二九号)による農地転用の許可、農業委員会の諸証明その他農業的土地利用から宅地的土地利用への転換を証する書類、ハ 宅地造成等規制法(昭和三六年法律第一九一号)、建築基準法等に基づく宅地的土地利用を証する書類、ニ 公的機関等の証明、ホ 市街化調整区域とされた時点後確認申請時に至るまでの土地利用の経過及び土地の現況」としている。

第二  本件処分の違法性について

一  請求原因1の各事実並びに同2(一)及び同3(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実に、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  旧四三四番二土地、四三四番の三及び四三四番四の三筆の土地は、基準時において一団の宅地であり、その地上には、「友生館」と呼ばれる古い木造平家建の建物(以下「旧友生館」という。)があった。旧友生館は、東西に並ぶ六戸の住戸から成る縦割長屋であり、その位置は、概ね別紙第一図の破線で囲まれた範囲であったが、線引き当時は、六戸のうち西側二戸が笠井きみゑに賃貸されているだけであり、その余の四戸は空き家であった。

2  法務局に保管されている字限図に記載された本件土地の形状及び位置関係は別紙第四図のとおりであり、旧友生館敷地である右三筆の土地は、地目が「山林」である四三四番一土地及び四主六番一土地に囲まれており、四三四番一土地及び四三六番一土地のうち旧友生館と南側道路との間の部分は、斜面ではあったが、旧友生館に出入りするための通路として旧友生館敷地と一体的に利用されていた。

3  本件土地は、基準時において、別紙第一図のうち緑色で色塗りした部分が急な斜面であり、紫色で色塗りした部分がさらに急な崖となっており、旧友生館北側の別紙第一図の緑色の幅広線で囲まれた範囲(以下「旧友生館後背地」という。)は、旧友生館の敷地との間に二ないし三メートルもの段差があり、基準時において宅地としては全く使用されておらず、増位山の山裾を構成する竹林であった。

4  旧友生館のうち基準時に空き家となっていた四戸の部分は、昭和五〇年ころ、老朽化して屋根が落ちたことから取り毀され、以後、本件土地の上には、笠井きみゑに賃貸されていた残余の二戸(以下「旧笠井きみゑ宅」という。)だけが存続することになり、旧友生館取段部分の土地は荒れ地として放置されていた。

その後、平成二年ころには、旧笠井きみゑ宅も空き家となった。

5  大高興産株式会社から委託を受けた行政書士川東廣明は、平成二年、本件土地について既存宅地の確認を申請する予定であるとして、所轄の兵庫県姫路土木事務所に打ち合わせを申し出たが、本件土地のうち四三四番一土地及び四三六番一土地の登記簿上の地目が「山林」であり、このような土地が基準時に宅地として利用されていたかどうかについては資料が不足しているとの指摘を受けていた。

6  旧友生館敷地であった旧四三四番二土地、四三四番地の三及び四三四番四の三筆は、平成三年二月八日付けで合筆され、七七一・七九平方メートルの一筆の土地(四三四番二土地)となった。

7  その後、右川東行政書士は、平成三年夏、昭和四六年三月二〇日撮影の航空写真(甲第二一号証)を持参して兵庫県姫路土木事務所を訪れ、担当職員である木村に対し、その航空写真を示し、四三四番一土地及び四三六番一土地のうち、四三四番二土地と南側市道との間の部分は、通路として四三四番二土地と一体利用されていた宅地の一部であると説明した。

右航空写真(白黒写真)には、旧友生館後背地の部分が鬱蒼とした森のようになった山裾の状態が撮影されており、その部分には建物が全くなかったものである。

木村は、右航空写真によっては判断が付きかねると考え、現地調査に赴くことになり、右川東行政書士の来訪の一週間後も同事務所の安東忍と共に本件土地に臨場し、姫路市道と接する本件土地の南西角付近から旧笠井きみゑ宅に歩いて登り、写真を撮るなどして現地調査をした。

8  大高興産株式会社は、右現地調査の直後ころ、本件土地に重機を搬入し、旧友生館後背地の段差や斜面を竹林ごと削り取るという大がかりな土木工事を行い、あたかも、旧友生館敷地と旧友生館後背地の全部が宅地であるかのような外観を創出した。

四三四番二土地については、右土木工事直後の平成三年一〇月九日、錯誤を原因として、地積を一六五二・九一平方メートルに更正する旨の登記がされた。

9  大高興産株式会社は、その後、本件土地の測量を終え、本件土地に関する平成三年一一月二日付け既存宅地確認申請書を兵庫県姫路土木事務所に提出したため、木村は、その翌日の一一月七日、同事務所の吉田昌昭と共に、再び、本件土地に臨場し、旧友生館後背地が削り取られている状況を現認した。

なお、右申請書の「予定建築物の用途」欄には「中高層共同住宅」と記載されており、本件土地に関する既存宅地確認申請が、旧友生館とは全く異なる建築物の建築を目的としていることが明示されていた。

10  兵庫県知事は、平成三年一一月八日付けで本件処分を行ったが、本件処分は、別紙第二図の燈色線で囲んだ範囲が四三四番二土地であって、基準時から確認時まで建物の敷地として利用されていた土地であり、水色線で囲んだ範囲が四三六番一土地の一部であり、緑色線で囲んだ範囲が四三四番一土地の一部であり、その二つの土地部分が南側道路からの進入路として四三四番二土地と一体的に利用されていた土地であるとの事実認定に基づくものであった。

三  右認定事実に照らせば、本件土地のうち既存宅地と認められるのは、旧笠井きみゑ宅の敷地及びその敷地から南側の市道への出入りに必要な四三四番一土地の一部のみであり、概ね本件土地の南側半分のうち西側半分程度(地積にして五〇〇平方メートル弱程度)の範囲であるといわなければならない。

旧友生館取毀部分は、基準時には宅地として利用されていたが、確認時まで一〇数年間も宅地として利用されていないから、既存宅地であるといい難いし、旧友生館後背地は、そもそも基準時から確認時まで一度も宅地として利用されたことがなく、およそ既存宅地とはいい難い。

したがって、本件土地全部が基準時から確認時まで宅地として利用されていたとの事実誤認に基づいて行われた本件処分は、既存宅地の確認に関する処分要件の認定を誤った違法なものであることが明らかである。

第三  兵庫県知事の過失について

一  前記認定事実に照らせば、兵庫県知事が既存宅地の確認に関する処分要件の認定を誤った直接の原因は、右第二の二8に認定の土木工事及び地積更正により、本件土地全部が宅地であるかのような外観が創出されたためではないかと思われる。もっとも、前記認定事実に照らせば、旧四三四番二土地、四三四番の三及び四三四番四の三筆は旧友生館敷地として分筆され形成されたものとみられるから、前記地積更正登記は事実に反する申請に基づく疑いが濃厚であり、右外観創出は不正な手段で既存宅地の確認を受けようとする行為であると疑われるところである。

二  しかしながら、旧友生館敷地と旧友生館後背地との間には人の背丈よりも高い段差が存在し、その段差以北には竹林が生い茂っていたことは、現地に臨場すれば一目瞭然であり、兵庫県知事の補助職員である木村は、平成三年夏に本件土地に臨場しているのであるから、その状況を容易に知り得たはずである。

そして、木村は、平成三年夏の現地調査の直前には、川東行政書士から、昭和四六年三月二〇日撮影の航空写真(甲第二一号証)を示されているのであるから、旧友生館後背地が基準時においても増位山の山裾の竹林であって宅地として利用されていないことを容易に推測できたはずである。

三  そうだとすれば、本件土地に関する既存宅地確認申請が不正なものであったにせよ、通常の注意力をもって右航空写真を観察し、現地調査によって土地の状況を検分したならば、本件土地の大部分が既存宅地でないことは容易に知り得たものといわざるをえない。

したがって、兵庫県知事は、過失によって違法な本件処分をしたものであるから、国家賠償法一条一項に基づき、違法な本件処分によって生じた後記第四に認定の損害を賠償する責任を負う。

四  被告は、地積更正の効力が遡ることから、四三四番二土地は当初から地目が「宅地」で地積が「一六五二・九一平方メートル」であると認定することに問題はないかのように主張しており、その主張は、詰まるところ、登記簿の記載だけに依拠して既存宅地の範囲を認定することが適法であるとの言い分と解されるのであるが、そのような主張は、前記第一の一に説示の既存宅地の意義や既存宅地の確認制度の趣旨とは相容れないものであり到底採用できない。

また、前記第一の三に認定のとおり、線引きから年月が経過することによって既存宅地確認制度の運用の困難さが増したことを考慮し、昭和五七年に改めて通達が発せられているのであり、その通達によれば、土地登記簿以外にも、航空写真等を総合的に考慮して既存宅地であるかどうかの判定を行うこととされているのである。そして、本件処分がされた平成三年一一月の時点では、線引きにより本件土地が市街化調整区域とされた時点(昭和四六年三月)から実に二〇年が経過しているから、本件処分に際しては、前記昭和五七年の通達の趣旨を踏まえた判定が必要であったことは明らかであり、本件土地については、地積更正後の四三四番二土地の土地登記簿に依拠して既存宅地であるかどうかの判定を行えば、その判定に際しての注意義務は果たされたなどと解することは、前記通達の内容に照らしても、到底許容できるものではない。

第四  原告らの損害について

一  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  本件土地は、市街化区域と市街化調整区域との境目に当たり、姫路市道を挟んで南側の市街化区域は、第一種住居専用地域(その後、都市計画法の改正により第一種低層住居専用地域)に指定されている。

本件土地付近は、増位山の南側山裾に位置し、狸や猪も見ることができる程自然が残された場所にあるが、姫路市道沿いの山裾の端の部分(市街化調整区域側)には木造の低層住宅が点在している。

2  原告ら居宅の所在地及び本件土地の北側は、非常に急峻な山裾であって、人家などはなく、原告ら居宅の周囲には、旧笠井きみゑ宅及び姫路市道の反対側に低層の木造家屋があっただけで、二階建て以上の建物は周囲一帯には存在しなかった。

3  清宅は、姫路市道に面しているが、吉岡宅及び亡ひでの宅は、清宅の敷地及び本件土地よりも一団高い位置にある。

吉岡宅及び亡ひでの宅は、南北二戸の長屋であり、玄関や風呂などは西側にあり、居間や寝室といった居室は東側にあり、東側には採光や通風のための大きな窓があったが、吉岡宅や亡ひでの宅の東側窓の日照、通風、眺望をさえぎるものは何もなかった。

なお、亡ひでの宅の場合には南側にも窓がある。

4  本件建物は、平成七年一月六日建築確認がされ、その後間もなく建築工事が開始され、平成八年七月二二日に完成し、翌七月二三日に検査済証が交付されたものである。

5  本件建物が、別紙第二図のとおり、吉岡宅及び亡ひでの宅のすぐ横(東側)に建築されたため、吉岡宅及び亡ひでの宅は本件建物の大きな日影に覆われることになるとともに、東側の窓を開け放っても本件建物の巨大な壁面が間近に見えるだけの状態となり、窓を開放しての生活が著しく困難となり、その結果通風にも支障が生じるようになった。

6  冬至における本件建物の日影の影響についてみると、吉岡宅の東側窓は、日の出から午後一時三〇分ころまでは全部本件建物の日陰となり、その後徐々に日が射すようになり、亡ひでの宅の南側窓は、日の出から午前一〇時ころまでは全部本件建物の日陰となり、東側窓は、日の出から午前一一時ころまでは全部本件建物の日陰となり、その後徐々に日が射すようになる。

二  以上の事実が認められるところ、清宅については、本件建物が建築されることによって、日照、通風等の生活利益について特段の支障が生じていることを認めるに足りる証拠は見当たらず、原告田靡清の本件請求は理由がない。

三  右認定のところからすれば、原告吉岡勲、原告吉岡恵津子及び亡ひでのは、その居宅の居間や寝室の窓から、十分な日照、通風及び眺望を得る生活利益を享受していたものであり、既存宅地としては旧笠井きみゑ宅の敷地しか存在しない状況下においては、そのような生活利益の享受が大規模高層建物によって妨げられることはなかったはずであるのに、違法な本件処分の結果、本件建物のような大規模高層建物によって右認定のような生活利益の侵害を受けたというべきところ、その生活利益の侵害は、特に冬場における朝日を奪われた点に鑑みれば非常に重大なものであって慰藉料の支払によって償われるべきであり、右生活利益の侵害の賠償として支払われるべき慰藉料の額としては、少なくとも各自一〇〇万円を下らないというべきである。

また、弁論の全趣旨によれば、右三名の者は、右生活利益の侵害に対する賠償を受けるために本件訴訟の提起を余儀なくされ、本件訴訟の提起及び追行を本件訴訟代理人弁護士に有償で委任したことが明らかであるところ、違法な本件処分と相当因果関係に立つ弁護士費用の額は、右三名につきそれぞれ二〇万円と認められる。

第五  被告らの主張について

一  被告は、都市計画法が、既存宅地の確認について近隣住民の権利利益の保護に関係する処分要件や予定建築物の形態に関する処分要件を定めていないことを根拠として、兵庫県知事が処分要件の認定を誤った既存宅地の確認をしたとしても、近隣住民である原告らの生活利益の侵害との関係で、国家賠償法一条一項の責任要件である過失、違法性、因果関係が認められる余地がないかのように主張しているので、その主張について検討する。

二  既存宅地の確認の処分要件が何で、処分の効力がいかなるものであるかを考えることは、処分に対する争訟手段が何か(取消訴訟の排他的管轄に服するかどうか)を検討する上で重要な意味を有する。

すなわち、都市計画法四三条一項六号ロは、建築禁止を解除する処分要件を定めた規定であって、処分要件の認定を誤った確認拒否処分は申請者の権利を「法律上」制限する処分となると解され、申請者は、取消訴訟によって確認拒否処分の法律上の効力を否定するのでなければ、自己の権利の回復を図ることができず、取消訴訟の出訴期間を徒過すれば「法律上」権利が制限された状態が確定することになる(その意味では取消訴訟は救済の制限となる。)。

これに対し、既存宅地の確認に関して近隣住民の権利利益の保護に関係する処分要件が何ら定められてはいないということは、処分要件の認定を誤った確認処分が、近隣住民の実体法上の権利利益を「法律上」制限する効力を有しないことを意味するのであり、したがって、近隣住民は、「法律上」現存しているはずの権利利益が違法な処分によって侵害された事実があるならば、取消訴訟とは無関係に、民事訴訟によってその救済を受けることができるのである(取消訴訟の排他的管轄に服することによる救済の制限はない。もっとも、近隣住民の取消訴訟の原告適格まで否定されるかどうかは、個々の住民の利益を個別的に考慮して確認が行われるべきか否かという解釈にかかる問題である。)。

既存宅地の確認に関して近隣住民の権利利益の保護に関係する処分要件が定められていないことの意味は右のとおりである。これに対し、国家賠償法一条一項の責任の有無は、処分要件が何かという考察から論理必然的に導き出されるものではなく、公権力を行使する公務員の責務が何であり、法律上保護された利益の侵害があったのかどうかという観点から判断される事柄である。

三  既存宅地の確認は、建築を欲する申請者の利益のみならず、近隣住民の住環境にも少なからぬ影響を及ぼすことが明らかな処分であるから、その処分要件の認定を正しく行うことは、何も都道府県知事が住民全体に対して負う政治的な責務ではなく、確認に利害関係を有する申請者及び近隣住民に対する責務であることに疑いの余地はない。

確かに、都市計画法は、既存宅地の確認について近隣住民の権利利益の保護に関係する処分要件を明示的に規定していないが、都道府県知事に対し、既存宅地の確認制度を正しく運用し市街化調整区域に一定の環境を確保することを命じていることは自明のことであり、市街化調整区域内の個々の住民の生活利益は、どのように控え目に考えても、少なくとも、既存宅地確認制度の適正な運用を通じ、公益の中に吸収解消される形で一般的に考慮され保護されているはずなのである。

したがって、都道府県知事が、その責務を行う上での過失によって既存宅地確認制度の運用を誤り、本来、一般的に考慮され保護されているはずの住環境に綻びを発生させ、住環境の侵害が一部住民について顕在化した場合には、当該住民は、法律によって保護された利益が侵害されたものとして、国家賠償法一条一項に基づき、損害の賠償を求めることができるのである。

四  なお、既存宅地の確認については予定建築物の形態に関する処分要件も見当たらないからも本件処分は、(開発行為を含まないという前提ではあるが)建築基準法の制限内でいかなる建築物を建築することも法的に可能とした処分であると解するほかない(建築確認を行う建築主事には、本件処分の効力を独自に否定する権限も、建築基準法の制限内にある建築物の形態をその裁量で制限する権限もない。)。そして、本件建物は、本件処分によって法的に可能となった以上に大きく高い建築物ではないのであるから、本件建物によって原告らに生じた前記損害と違法な本件処分との間に法律上の因果関係(相当因果関係)が存在することは明らかである。

五  以上の検討から明らかなとおり、結局のところ、被告の主張は、既存宅地の確認の処分要件に関する定めの意味内容を誤解し、独自の見解を述べるものというべきであるから、採用することができない。

第六  結論

以上の次第で、原告吉岡勲及び原告吉岡恵津子の本件請求並びに原告田靡清の亡ひでのを承継しての本件請求は、主文の限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を適用し、なお、仮執行宣言については相当ではないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋詰均 裁判官 永田眞理 鳥飼晃嗣)

別紙〔略〕

参照条文

◆都市計画法(平成一二年法律第七三号による改正前のもの)

第四十三条 何人も、市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては、都道府県知事の許可を受けなければ、第二十九条〔開発行為の許可〕第二号若しくは第三号に規定する建築物以外の建築物を新築し、又は第一種特定工作物を新設してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して第二十九条第二号若しくは第三号に規定する建築物以外の建築物としてはならない。ただし、次に掲げる建築物の新築、改築若しくは用途の変更又は第一種特定工作物の新設については、この限りでない。

一~五 略

六 次に掲げる要件に該当する土地において行なう建築物の新築、改築又は用途の変更

イ 略

ロ 市街化調整区域に関する都市計画が決定され、又は当該都市計画を変更してその区域が拡張された際すでに宅地であつた土地であつて、その旨の都道府県知事の確認を受けたものであること。

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